POP UP ACTANT#4 「Living Lab for SERVICE DESIGN:これからの創造性は『リビング』から生まれる」前編

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POP UP ACTANT#4 「Living Lab for SERVICE DESIGN:これからの創造性は『リビング』から生まれる」前編


“POP UP ACTANT”は、サービスデザインの実践につながる学びを、同じ関心を共有する人たちと一緒に深めていこうと立ち上げた、ACTANTの課外活動的イベントシリーズです。先進的な知見のインプットから手を動かす気軽なワークショップまで、テーマもフォーマットも様々なかたちを試しながら、不定期に実施していく予定です。今後の開催スケジュールは、主にFacebookを通じてお知らせしていきます。ご興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。

POP UP ACTANT#4
Living Lab for SERVICE DESIGN:これからの創造性は「リビング」から生まれる

日時|2019年11月15日18:00〜20:30
会場|Inspired.Lab
スピーカー|エスベン・グロンデル、ピーター・ユリウス(Public Intelligence)、坂井田麻子(東急株式会社

第4回POP UP ACTANTのテーマは、イノベーションを社会に導入するための有効なアプローチのひとつとして注目される「リビングラボ」。今回は、ヘルスケア・イノベーションサービスに取り組むデンマークのPublic Intelligenceとの共催で、ビジネス文脈における2組の実践者から、それぞれの取り組みについて語っていただきました。
 レポート前編では、弊社南部によるイントロダクションと、Public Intelligenceエスベン・グロンデル氏によるプレゼンテーションを、後編では、東急株式会社の坂井田麻子氏のプレゼンテーションと、スピーカーのお二方にピーター・ユリウス氏(Public Intelligence)を交えたディスカッションの模様をお伝えします。

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イントロダクション:リビングラボとは?/ACTANT代表 南部隆一

北欧を中心に発展してきた「リビングラボ」は、日本でもこの3〜4年で徐々に広がりを見せています。リビングラボとは「実際の生活空間やコミュニティを舞台に、ユーザーや市民も主体的に参加しながら、長期的なリサーチやデザインを進める共創(オープンイノベーション)のための仕組みや活動、活動拠点」のこと。イントロでは、その特徴を次のように解説しました。

「まず“つかう場所でつくる”という場所の特徴があります。企業や大学のラボから街に出て、初めから使う人が生活するコンテクストでつくる、ということです。
 2つめの特徴は、人です。“つかう人達とみんなでつくる”。ユーザーをリサーチ対象ではなくデザインパートナーと捉え、フラットな関係性で一緒にデザインに取り組みます。それは、ひとりのデザイナーだけでは対応できなくなった複雑化する課題に対して、多様なステークホルダーみんなで立ち向かうアプローチでもあります。
 3つめの特徴は“持続的にその場でつくって試す”というプロセスです。変化の速い今の時代、ユーザーリサーチの数年後にプロダクトができても、そのときには違うニーズが生まれているかもしれません。生活者と一緒にリサーチしていくことで、効率的に時代状況の変化に対応することができます」

様々な分野で、実際にリビングラボが実践されています。例えば、デンマークのオーデンセには、既存の病院の隣に、将来建設される病院のプロトタイプをつくっているヘルスケア・イノベーションのリビングラボがあります。国内では、リビングラボと銘打ってはいないものの、子どもの学びの場とシステム開発を結びつけたVIVITAもリビングラボ的な施設です。また、Googleがカナダ、トロントで進めるスマートシティのためのSidewalk Labsも有名です。

では、リビングラボのメリットとは、どのようなものでしょうか。様々なステークホルダーから捉えられますが、企業の視点からは次のような点が挙げられます。
・その場にユーザーがいるため、深いインサイトを効率的に得ることができる。
・初期段階からニーズに応えているかどうかがテストできるため、無駄な手戻りを減らすことができる。
・長期的なユーザーとの関わりを通じて、ターゲットとなるファンを醸成できる。

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「昨今、イノベーティブなアイデアやプロトタイプができた後、それをスケールさせていく“社会導入”に大きなハードルがあると言われています。その段階を補完するのが、リビングラボなのではないか。日本における北欧型モデルの有効性や、日本なりのリビングラボの可能性について考えていけたらと思います」

これまで日本では、行政や研究者の間でリビングラボの理念やフレームワークについては取り上げられてきたものの、企業における実践について語られる機会は、まだ多くはありません。そんな企画背景を共有しつつ、デンマークと日本、それぞれの企業の取り組みを紹介するプレゼンテーションに続きます。

 

プレゼンテーション① 「次世代リビングラボとその方法論」
/Public Intelligence Japan株式会社代表 エスベン・グロンデル氏

2007年にデンマークで設立されたPublic Intelligence(以下、PI)は、創業以来、リビングラボを中心としたデザインプロセスを開発してきました。福祉国家デンマークにおいてどのようにヘルスケア・イノベーションを実践しているのか、日本拠点の代表エスベン・グロンデルさんが、PIの取り組む事業とその方法論を紹介しました。

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Public Intelligenceについて

病院経営・医療機器開発・製薬を除いた、健康に関するすべての領域を包括するヘルスケア。デンマークでは、そのサービスの約85%を市役所が提供しているそうです。当初、市役所がテクノロジーを効率的・効果的に現場に導入するためのサポートを行っていたPI。メーカーとの接点が増え、福祉・ヘルスケアのネットワークを整備していくなかで、公共機関と民間企業の橋渡しを担うようになったのだそうです。

「日本支社では、主に4つの事業をしています。デンマーク本社のようなPoC(概念実証)フィールドの提供と、日本企業へのテクノロジー導入支援、公的機関の業務改善です。それから、日本でも福祉国家として注目されているデンマークについての情報提供などをしています。PI全体は小規模なチームで、約10名。主にサービスデザイナーとIoTエンジニアで構成されています」

 

Public Intelligenceがつくるリビングラボ

PIによるリビングラボの定義は、「現実との効率的なコラボレーションを可能にする開発/テストシステムの一部」。「リビング」には、消費者や現実に近しいところ、「ラボ」には、人を巻き込むソーシャルストラクチャーとしての仕組みと、自由に物事を実験できる雰囲気、という意味合いが含まれています。では、PIが実際に手がけるリビングラボは、どのようなものなのでしょうか。

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「デンマークオフィスのイノベーションホールは、第1世代の“ショールーム型”リビングラボです。バスガレージを転用した組み合わせ自由な空間で、開発段階のテクノロジーを中心に置き、ステークホルダーやユーザーを招いてここで評価してもらいます。
 第2世代は、現実により近しいテスト環境を設けた“シュミレーションアパートメント型”のリビングラボです。ここでは、センサーを実際のベッドに取付けたりして、中期的な試験を行っています。例えば、物理的にコンセントが必要だ、といったことは、技術そのものを見るイノベーションホールではなかなか気がつきません。実際の現場環境に設置したときに、そうした基本的なミスをしないように効率的に実験を回しています。
 そして、第3世代では、街全体をリビングラボにしています。デンマークには98の地方自治体があるのですが、その約3分の1と協力関係を結び、ソーシャルストラクチャーをつくって、各プロジェクトのテーマに即したリビングラボを展開しています。そのうち、複数の市役所との協働で空間型のリビングラボをつくったケースもあります」

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ここ2〜3年、自治体とのリビングラボにおいては高齢者支援に関するプロジェクトが特に増えており、なかでも認知症対策は、どの案件においても外せない条件となっているのだそうです。2025年までに高齢者が介護施設へ入居する時期を半年間延長することに、国を挙げて取り組むデンマーク。その取り組みから、日本にとってのヒントも見出せるのではないか、とエスベンさんは語りました。

「未来のヘルスケアを担う日本の大企業は、社内のイノベーションの仕組みとしてリビグラボをつくるべきだと思います。デンマークのヘルスケア制度は、財政負担の限界に達しているため、極力、病院や福祉施設に入らないようにしなければなりません。そのために在宅ケアを推進し、アクティブエイジングを支援しています。すると、病院のように整備された施設ではなく、人が住んでいる場所にサービスを提供しなければなりません。つまり、モノやサービスを現実に近い環境で開発することが、非常に重要になってきます」

 

リビングラボを動かす手法──体系的イノベーション方法論

リビングラボの実践にあたって、PIではどのような手法がとられているのでしょうか。現在、ver.3にアップデートされている「体系的イノベーション方法論」は、PIがヘルスケアサービスの提供側とテクノロジー開発側の架け橋の役割を担うようになった際に、これまでのプロジェクトのプロセスを徹底的に調べた結果、生み出された方法なのだそうです。

「“ユーザー中心設計”は、皆さんになじみのある考え方だと思いますが、ときにそれは、ユーザの視点だけを考えればすべての課題が解決するという甘い考えになりがちです。まず企業が戦略的に取り組むべき課題を真剣に定義しなければ、ユーザー中心で考えたものも、経営判断で実現できなくなってしまいます。ですから、プロジェクトの最初のフェーズで、経営者や意思決定者を集めて課題とソリューションの範囲を定めています。それが決まれば、その後はユーザーと現場スタッフの目線を100%取り入れます」

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この課題定義を行う「コアラボ」がプロセスの特徴的な第1段階となり、第2段階にユーザーを中心にソリューションを生み出すプロセス、そして第3段階に導入を構想するスケールのプロセスが続きます。段階ごとに、各ステージを効率的に進行するための様々なツールが定義されており、例えば、コアラボでは、キックオフミーティングで課題設定をする際、レコーディングのためのツールを定めて、プロセスのガバナンスを行っているとのことでした。

「第2段階のTrusted User Labが、ユーザーやステークホルダーを巻き込んだリビングラボになります。特徴的なのは、実証実験に参加することすら認識していない“裸のユーザー”から、特定の意見を持っていることが明確な“プロのユーザー”まで、ユーザーという概念を4段階に分けていることです。適切なタイミングで適切な結果を得るために、バイアスの度合いをコントロールしているのです」

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第3段階目の「スケールラボ」のツールは、今年さらにアップデートされ、現在公開準備中とのこと。エスベンさんによるプレゼンテーションはここで終了ですが、ピーターさんを交えた後半のディスカッションで、リビングラボやデンマークの状況をめぐるトピックを語ります。

プロフィール|Esben Grøndal エスベン・グロンデル
デンマーク、コペンハーゲン市出身。Aalborg University, Service Systems Design修士卒業。在学中にデンマーク王立図書館のサービスデザインによるビジネスリフレーミング・新規事業開発プロジェクトに携わり、国際学会にて発表。 その後日本のデザインエージェンシーに就職し、様々な業界の日本企業の顧客理解や製品サービス戦略プロジェクトに関わった。 現在は、デンマーク発のヘルスケア・イノベーション事業と公的機関サービス向上事業を展開するPublic Intelligence Japan(株)の代表取締役として、日本のあらゆる規模のメーカーを北欧のヘルスとウェルビーイングに対する知識や経験につなぐ活動をしています。

<後編へつづく>