『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 4/4

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『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 4/4


さる11/1、青山ブックセンターで開催された『サービスデザインの教科書』刊行記念トークイベントの模様を、全4回にわたりレポートします。第1回は、武山教授による著者解題。『サービスデザインの教科書』に込められた思いが語られています。つづく第2回第3回では、元IDEOデザインディレクターの石川俊祐さんとの対談を、第4回では会場からの質疑応答を収録しています。

対談|武山正直×石川俊祐<質疑応答>
 

ストレスを逆手にとるサービス

質問者1|サービスの本質は、「人のために能力を使うこと」だというお話がありましたが、その場合、ポジティブな快さや楽しさだけでなく、苦痛となる場合もあるのではないかと思いました。もし、そのような事例があればお聞きしたいです。

武山|すぐに思い浮かぶのは、行動を抑制するニーズというものです。ヘルスケアの領域では、アルコール中毒のように、促進するよりも抑制することがゴールになるケースがあります。苦痛の感覚を適切なタイミングで感じてもらうことで、いい抑制の方向に誘導していくという考え方です。
 それから、実際の苦痛でなくても、あるスポーツジムのサービスで、使わなかった回数券の分だけ、自分の嫌いな会社にお金が流れていく仕組みがあります。こんな会社にお金が流れるくらいだったら頑張るぞ、という逆のパターンもある。これは、人間が同じだけのメリットよりも同じ量の損失に対してより過敏に反応する、という行動経済学の研究の裏付けに基づいているのですが、その傾向を逆手にとって意欲を出させています。最終的にはハッピーな方向に行き着くのですが、苦痛の感覚を手段として有効に使うケースもあります。

石川|行動経済学といえば、臓器提供の意思を問うドナーカードで、ストレスを感じさせる質問にして、こちらの方が楽だと思う方を選ばせるやり方もありますね。それから、日本には少ないですが、ラウンドアバウト(信号機のない環状の交差点)は信号に比べて事故の抑制率が高いそうです。自分で左右を見て確かめないといけないという緊張感が、より安全な運転をさせる。あとは、僕の大好きなドラえもんもそうですね。たまに怒るから好きなんです。のび太にとってはストレスですが、それも含めて優しいですね(笑)。

武山|全体のなかでどう苦痛を位置づけるかですね。本書でも触れていますが、京都大学の山内裕先生による「『闘争』としてのサービス」という考え方があります。なんでも与えてあげるのではなく、あえて欠落や挑戦を設けることが、サービスの質を上げるうえで重要になる局面がある。一方的に与えられてしまうと、依存して受け身になってしまいますが、いい形でストレスをかけることで、自分でなんとか解決しようというモチベーションが湧くわけです。適度なギャップや欠落をいかに生み出していくかが、サービスをつくるうえでも面白いテーマになってきています。


 

多様性を保つ仕組み

質問者2|いいものをつくるためには、先ほどのお話にも出てきた「視座」を高めて、考え続けることが必要だと思う一方で、実際には、牽引すると依存的になられたり、疑問を呈する発言をするとモチベーションが下がったりと、難しいところがあります。デザインをサポートする側には、関係やモチベーションのマネジメントが問われると思うのですが、ご経験から、なにか示唆があればお願いいたします。

石川|IDEOには兼務がないので、3〜4人のメンバーが一緒に、3〜4ヶ月の間、ひとつのプロジェクトだけに取り組みます。まずはそのメンバーで、できるだけ多様性のある視点を担保していく。それから、例えばプロジェクト外のディレクターを入れて、週に1回くらいは第三者の視点を入れてレヴューをします。かき回し続ける状態を、チームで設計してつくる。疑い続けることを仕組み化して、外部の人間や多様な視点をどれだけ入れられるかが、多くの場合、成功に関わっています。

武山|そうした仕組みのデザインと同時に、プロジェクトも動かさないといけないですよね。その両方に人的リソースやエネルギー、時間が必要になりますが、仕組みを考えて、プロセスを振り返る作業はリーダーだけが担うものなのでしょうか?

石川|基本的に、プロジェクトメンバーはプロジェクトの成功にフォーカスしていて、リーダーは、そこで本当にいいものができるか、クライアントさんがそれを理解しているかどうかを見ています。プロジェクトリーダーが十分に育っていれば、チームが今煮詰まっているとか、外部の意見が必要だということを察知して、第三者を入れることができます。
 一方、ディレクターは、チームの外から複数のプロジェクトを見ています。先ほど言ったように、うまくいっているように見えるチームほどリスクがあることが多いので、そういうときにパッと勝手に行って、いきなり話を始めます。IDEOはプロセスが流動的で、ブレストも人がきた瞬間に突然始まる事が多々あるのですが、それだけ、壊したりやり直したりすることに慣れています。ですから、プロジェクト外の人が気づくことも、リーダーが気づくこともあります。メンバーが気づくこともありますし、普段からコミュニケーションをとっているので、日常的に実現されていますね。

質問者2|では、サービスデザインをするときに、非デザイナーの人たちに対して、どのようにそうした撹乱を持ち込むことができますか?

武山|私は、自分の意見やアイデアの特徴を視覚的に図式化して、フレームに1回落としてみています。そうすることで客観的に評価ができるようになるので、バイアスがかかっていないかどうか検証しています。でも、石川さんが言うように、見直しせざるをえない仕組みをルーティンのなかに入れていくことも大事ですね。

石川|本当は、仕組みとして見直すよりも、「なにかヤバいな」と思ったら、ただメンバーと話せばいいという程度の、自然な文化になると一番やりやすいですよね。長年やっているサンフランシスコのオフィスでは、それが普通になっているので、誰にとっても苦痛じゃない。レヴューされて、人から意見をもらうことが本当に宝だと思っています。かき回されるのに慣れることは、いいものをつくるためには必要だと思います。


 

サービスと生産性の両立する地点

質問者3|サービスの分野では、顧客を中心にして体験をつくっていこうという流れがある一方で、おもてなしをしすぎて、サービスをしすぎているから生産性が低いとも言われています。例えば、海外のソフトウェアプロバイダーの業界では、自分たちの商品に合うように企業の業務を変えさせるやり方で、同じものを広範にサービスする形になっています。一方、日本の企業は、お客さんの働き方に合わせてソフトウェアをつくるので、働きやすいけれど生産性があがりにくい。サービスデザインの分野で、そのふたつが矛盾しない、コスト自体も下がり、お客さんの体験も向上したような事例があれば教えていただきたいです。

石川|Uberはどうでしょう。コストも下がって、渋滞も減っていますよね。

武山|どこでコストが減ったのかにもよりますね。社会全体でなのか、既存のビジネスモデルと比べてなのか、いろいろ見方はあると思います。

石川|プラットフォーム志向でものをつくることに落ち着く気がします。Appleのような例でもいいですが、それぞれにカスタマイズできて、高いけどみんな欲しがりますよね。コストも、つくるノウハウも、一社が全てをもっているわけではない。

武山|ビジネスモデルのつくり方の違いもあるし、テクノロジーを導入したときに、最終的に人と接する部分にどう厚みや柔軟さを組み合わせるかでも違います。規模を拡大していくプラットフォーム的な戦略と、そこに人の満足と配慮をいかに組み合わせていくかは、日本のチャンスでもあり課題です。一概に、おもてなしの部分をネガティブに考える必要はないと思います。
 もうひとつ、海外の企業で強いのは、働いている人もその企業の世界観が大好きで、魅力を語れるケースです。文化や慣習が共有できていると、スケールメリットを発揮しやすくなりますし、カスタマーといい関係をつくることとも矛盾しません。日本のサービス業の効率化を考えるときに、イメージだけでなく、働き方やお客さんとの接し方まで一気通貫して、文化やブランドを組織内に共有できているか、も課題だと思っています。

 

建築プロジェクトへの応用

質問4|建築の仕事をしていますが、担当している巨大な公共のプロジェクトでは、周辺住民の説得など、デザインフィー以上の仕事が発生してきます。そのようなときに、どう条件を整備していけばよいのか、クライアントワークを超えて、地域との関わりをどのように設定していくべきか、お考えがあれば教えていただきたいです。

武山|公共のプロジェクトの場合、何が成果かという設定によりますが、きっとクライアントの満足する建物を納品することがゴールではないと思います。建築を通じて、地域にこういう状況を実現するというゴールが、最初からステークホルダーと共有できていれば、プロジェクトの性質自体が変わっていくはずです。そのなかで、建築事務所としてのパフォーマンスや、フィーの出所などは難しい問題だと思いますが、いずれにしても、今の世の中は、プロダクトを納品して対価をもらうというモデルから、共有の成果をどう実現するかというパラダイムに変わってきています。デザインのクライアントワークも、それに合わせて共同型に変えていく必要があるのではないでしょうか? それは、建築事務所だけが変わってもうまくいかないと思うので、最初から、住民も重要なステークホルダーだと認識することが大事ですね。

石川|どうやって人を巻き込んでいくか、そして最初に全体に対して利益のあるビジョンをつくり、きちんと共有できているかが重要です。それから、お金をとってくるのが得意な人を入れたり、やりたいことの変化に対応するための金銭的な協力を担保していくことですね。
 僕は今、代官山で大きな建築のプロジェクトをやっていて、やっぱり計画も予算も変わり続けるのですが、その度に協力者を走り回って探しています。経験としては、あきらめないと意外とみんな協力してくれます(笑)。ダメと言われても何度も行って、お金を出してもらえたことが実際にあります。それには、やはり説得する材料を自分でつくって、一緒に銀行まで行くくらいの勢いが必要です。往々にして、社内に説明できないとか、誰かの不利益になるという理由で断られるケースがありますが、熱意があるならば、説得する材料を一緒につくってあげればいいんです。

武山|あるいは、最初から人々が生活する街のなかで社会実験を重ねる「リビングラボ」のような体制で、ステークホルダーと実験も共有する環境や体制を地域のなかにつくってしまう。それを、建築エージェンシーがコーディネートしたり、外部と連携して実施していくことも可能です。そうして、プロジェクトの性質を変えてしまう方がうまくいくかもしれませんね。

(了)

『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 1/4 (トーク|武山政直)
『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 2/4 (対談|武山政直×石川俊祐<前編>)
『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 3/4 (対談|武山政直×石川俊祐<後編>)