『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 3/4

『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 3/4


さる11/1、青山ブックセンターで開催された『サービスデザインの教科書』刊行記念トークイベントの模様を、全4回にわたりレポートします。第1回は、武山教授による著者解題。『サービスデザインの教科書』に込められた思いが語られています。つづく第2回、第3回では、元IDEOデザインディレクターの石川俊祐さんとの対談を、第4回では会場からの質疑応答を収録しています。

対談|武山正直×石川俊祐<後編>

「学び」と思考の精度

武山|石川さんと私の興味の共通点に、デザインのプロセスにおける「学び」、教育やラーニングの重要性があるのではないかと思っています。これまで、ゼミの学生を石川さんのところへ連れて行ったり、石川さんに私の大学に来てもらったこともあるのですが、教えることや学ぶこと、学校教育、あるいはデザイナーも含めた人材育成に関して、世の中をもっといいものにしていく発想や取り組みがあれば、聞かせてもらえますか?

石川|多くの日本の教育(デザイン教育含む)は、まだまだ大企業で活躍できるようにするための育て方になっていて、非常にクラフトというか言われたことを完璧にこなす人材や、言うことをそのまま実行することが重視されていて、問いかけが足りていないと感じています。それはとても素晴らしいことなので、無くさない方がいいと思いますが、どうしても、発想したり体験から考え直すことに力を入れていない印象です。しかも、そのためのアプローチやプロセスは、輸入しようとしてしまう。例えば、デザイン思考でも、穴埋め式のツール(ビジネスモデルキャンバスやアイデアを記入するワークシートなど)をマインドセットを教えずにツールとしてだけ教えると、すごくサラッとした、サプライズのないものがたくさん生まれてしまうと危惧しています。穴埋めをしたら、満足感はありますが、プロセスを辿っていったらどれも同じ結果になってしまう。
 けれども、クラフトでものを完璧につくる思いがあるように、日本人だからこそ気づけるサービス領域や思考の深さがあるのではないかと思います。でも、これは本当に最高のいいものだろうか? とか、このアイデアは本当に面白いだろうか? というようなことは、教室ではあまり話されません。自信をもたせるようなことが、あまりやられていないと思うんです。

武山|石川さんも、デザイン教育を受けていますよね。学びにとって、パターンを習得するのではなく、自分で問い続けることが大事だという感性は、どのように身につけましたか?

石川|僕は高校を卒業してイギリスの大学に行ったので、イノベーティブなことを思いついて、やったもん勝ちだ、という教育を受けました。誰もやってないことを必死で考える訓練をするんです。そこで、デザインリサーチが必須になります。先生たちもプロのデザイナーとして実践しているので、見る目とフィードバックが厳しい。ボロクソに言われながら、デザイナーは1000回否定されて1回ようやく通せるんだ、と叩きこまれる。これは、日本ではクラフトに対してあるような厳しさと似ていて、思考の精度に対する厳しさがあるんです。こうした思考の精度を、手を動かすことと同じようなレベルにもっていけば、日本人は世界最強だと思います。そこに日本人特有の「優しさ」が付加されたら世界最高のものができるはずなので、そういう教育をどこかでできないかと思っています。

武山|自分のやっていることにあえて批判を受ける、そのトレーニングが必要ですね。

石川|自分の想定範囲内に収まっていたらダメだというモノサシをもてるかどうかが大事。想定していた通りのものが出たら、進化していない可能性があるんです。GoodではなくGreatを作らないと。

武山|私もこの本を書いていて、編集者の山田さんに何度も壊されましたが(笑)、批判をいかに積極的に自分の肥やしにしていくかが大事で、そのこととデザイン思考やサービスデザインのプロセスを学ぶことは一体化していないといけない。

空気を読む力

石川|これは僕の勝手な持論なのですが、日本人は世界で一番優しい。それから、空気を読む力がものすごくある。デザイン思考でも、観察手法を使います。食べてはいるけど本当は美味しくなさそうとか、喜んでないからこうした方がいいとか、観察能力を生かしたサービスは、リテールやレストラン、料亭、昔ながらの民宿といった場所で昔から実現されていて、世界中が追いつけないクオリティがある。ものづくりにおいてもそうです。でも、組織に入った瞬間に、その観察能力を自分なりに応用してはいけないものだと思いこんでしまう。自分を信じることをやめてしまって、客観的な意見だけを言うように切り替わる。自らが空気を読む力を信じること、その信じたことを形にする力、それを伝える力をいかに育てられるかが大事だと思います。

武山|失敗しないように、相手の機嫌を損ねないようにと、空気を読む力が消極的に使われてしまっているということですね。

石川|元々もっている観察する力を、いかにものづくりやサービス、体験をつくることに生かせるか。小さな変化が大きなイノベーションにつながる事例はたくさんあります。日々の小さな観察が日常化しすぎていて、自分では気付いていないのかもしれませんが、それをひっくり返す教育ができたら面白いですね。

武山|石川さんが日本人の特徴を敏感に観察されている一方で、一般的にはグローバル化が叫ばれていて、大学でも英語で授業を行う流れがあります。やはり今後、グローバルな感覚は大事でしょうか?

石川|僕は、部分的には世界中がもっと日本化してもいいと思っています。日本語についての著作をいろいろ書かれている、言語社会学者の鈴木孝夫さんによれば、日本語自体が人間を優しくするクオリティをもっている、とのことです。あるセミナーで聞いた話ですが、日本に住んだ外国人は、日本語を通じて、利他的に相手のことを考える人に育つのだそうです。でも自国に帰ったとき、日本のように、優しくしてあげたら相手からも優しくされると思って優しくしても、優しくされることはなく損している自分に気づくのだそうです(笑)。これからは、例えばAIやロボットなどのちょっとした性格付けにおいても、日本人の根底にある優しさで「日本のものづくりはやっぱり違う」と思われるはずです。その優しさを、テクノロジーにどう転化するかが面白いところですね。

武山|言語学の先生と一緒に、「日本語×サービスデザイン」という授業をしたら面白そうですね。この本を書いているときも、もっと日本語に置き換えるようにと何度も指摘されました(笑)。どうしても、海外で先に生まれた情報にはカタカナのラベルがついてしまうので、本来はそれを日本語とぶつけてみる作業をすべきですが、学者たちは専門用語としてそのまま使ってしまっている。日本語のもっている力や感性をもう少し見直す必要がありますね。

石川|僕は、コンサルティングという立場で日本企業と仕事をしていたので、日本に自信を注入していくことが、ずっとテーマとしてありました。ロボットを作っている会社に対しては、ただ力が強いロボットよりも、時には叱り付け人を育てるドラえもんのような性格付けの仕方があるのではないかと話をしていました。日本人、日本的な強みをもっと活かしていけたらと思っています。IDEOのなかでは、「カインド・テクノロジー」という造語を作って、浸透させました。日本の感覚を英語化したら意外と響いたんです。この言葉は、「日本人らしい、あいまいな、優しいユニークな部分を入れること」として、ロボットをつくる日本企業の指針のひとつにも採用されています。そのようにして徐々に変わっていけば面白いなと思います。

公共プロジェクトの課題

武山|サービスデザインの大きな領域として、公共サービスがあります。イギリスは政府のなかにデザインラボをつくっています。サービスデザインのプロセスを通じて、役人がデザイナーと共に、公共サービスの使い勝手から、政策をつくるプロセスそのものまでをもっとクリエイティブにしようと相当チャレンジングなことをしています。それは、北欧を出発点とする、一般の人たちが公共の問題を身近に感じているバックグラウンドを前提とした特有の傾向だとは思います。
 一方で、日本の公共サービスも様々な課題を抱えています。高齢化によって税収も減ってきますし、医療費はどんどん膨れ上がって、税金だけで行政に公共サービスを担ってもらう時代は崩れつつあります。そこで、民間と公共のプロジェクトを比較したとき、石川さんの経験から、デザインコンサルティングするにあたっての違いを感じることはありますか?

石川|僕ら自身のアプローチはどこでも変わらないのですが、古くからの慣習が根強く残っていて、新しいものと入れ替えにくい場合はチャレンジングですね。そもそも、どういう体験をつくり上げるか課題設定をしてこなかった方が多いですし、デザインという言葉自体に対してもあまり意識がないところで、いろいろな価値観や体験をデザインがつくれるのだと理解してもらう苦労はありました。

武山|その部分を、民間のプロジェクトの場合よりも、時間をかけて丁寧にやっていく必要があるでしょうか?

石川|公共でやる場合、小さな変化が大きな変化につながります。非常に面白いのが、サービスデザインのコンサルタント会社のLiveworkがデザインしたカーシェアリングのStreetcarというプロジェクトがあります。僕が好きなのはその罰金の仕組みで、例えば、車を返す時間に30分遅れたら、普通はその事業を経営している企業に罰金を払いますよね。ところがStreetcarでは、次に予約していた人が遅延した分の罰金を受け取れるようになっています。そのサービスに対して、いい思いしかしない仕組みがデザインされているんです。そういう小さなディティールまでデザインしないといけないということを、みんながどれくらい真剣に共有できるでしょうか? サービス体験としては、たとえ10%素敵でも、残りの90%が普通だと、全体としては普通になってしまうんです。

武山|それは逆に言えば、ディティールでも大きな違いを生みうるということでもありますよね?

石川|はい。そうですね。どこまでをデザインするのか、その点を最初に理解してもらうことが重要になります。

武山|そうすると、実際にプロセスに参加してもらい、一緒にプロトタイピングすることが不可欠になってきますね。

石川|よくやるのは、一緒にリサーチに行ってもらうことです。通常はリサーチ結果の共有というと、こちらからプレゼンテーションする形になってしまいます。もちろんビデオを使って生の声を聞くとか、方法はいろいろありますが、その場にいる人たちにインタヴューするのを一緒に聞いてもらう。すると、「そんなふうに思っているとは知らなかった」と実感できるわけです。まさに「自分ごと化」してもらうということです。

武山|今後、日本の公共プロジェクトにおいても、まず現場にフィールドワークをやってもらう必要がありますね。

『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 1/4 (トーク|武山政直)
『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 2/4 (対談|武山政直×石川俊祐<前編>)
『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント 4/4 (対談|武山政直×石川俊祐<質疑応答>)