〈価値提供〉から〈価値共創〉へ

イギリス、アメリカ、北欧といった国々で発展し、日本のビジネスシーンにおいてもにわかに耳にすることが多くなってきた「サービスデザイン」。複雑で曖昧なビジネスや社会の課題にたいして、一方的な価値の提供ではなく、〈共創〉という観点で、さまざまな人々を巻き込み、その能力を引き出しながら、これまでにないサービスを創出する方法として注目されています。

「モノからコトへ」という言葉に象徴されるように、近年、多くの日本企業が、製品をつくることをこえて、体験や価値を提供することに注目しています。AIやビッグデータ、IoTといったテクノロジーの発展は、人々の行動データの収集と分析を容易にするため、そうした流れに掉さしています。サービスデザインはそうした動向と非常に相性が良いため、今後さまざまな企業での導入が予想されます。

しかし、「サービス」も「デザイン」も聴きなれた言葉であるがゆえに、これまでの固定したイメージ――サービス=提供されるもの、デザイン=美しい形を作るもの──に引っ張られており、その価値や手法の普及は今後の課題といえます。

本書では、「サービス」と「デザイン」という概念をそれぞれときほぐし、日本の文脈に置き直したうえで、ビジネスシーン、さらには公共政策における「サービスデザイン」の可能性を説きます。



PART1: 「サービス」とはなにか?
サービスの意味の変遷とビジネスの関わりについて理解する。まず日常的な言葉の使われ方に注目し、次にそのルーツを辿る。さらにビジネスにおけるサービスの従来の考え方と、新たな考え方の違いに触れ、サービスの今日的な意義を明らかにする。

PART2: 「デザイン」とはなにか?
職能としてのデザインの誕生と、対象の広がる経緯を踏まえ、様々なデザインに共通する創造的問題解決の特徴を描く。そして今日のビジネスや社会におけるデザインへの高まる期待と、その役割や新たな展開の姿を描く。

PART3: 「サービスデザイン」とはなにか?
サービスデザインの特徴と魅力を紹介する。まず、その誕生と発展の経緯を辿り、次にその基本的なプロセスやツールを導入する。そして代表的な応用事例を通じてサービスデザインを実践するためのヒントや教訓を得る。

PART4: 「サービスデザイン」のこれから
サービスデザインの新たな応用の可能性を考える。特に、新規事業の開発やイノベーション、またそれに伴う従業員の働き方や組織の変化に注目する。さらに公共サービスや政策づくりへの導入の現状を踏まえて、今後の課題を展望する。

著者紹介

武山政直
慶應義塾大学経済学部教授・コンサルタント

著者メッセージ

テクノロジーの進化や普及、人々のニーズの変化、社会課題の複雑化にともなって、ビジネスの世界に再編が求められるだけでなく、公共の領域においても、サービスや政策の在り方に改革が求められています。しかし、そのような再編や改革を、何を指針に進めていけば良いのでしょうか。サービスデザインは、そのような問いに有効な示唆を与えてくれます。
本書はマニュアル本ではありませんが、サービスデザインの土台にある、価値の共創や事業やサービスのリフレーミングといった考え方を理解し、その基本的なプロセスやテクニックの特徴を、具体的な事例を通じて学べるように工夫しています。本書を通じて、様々な分野で、再編や改革に向けたより積極的な動機づけがおこることを期待しています。

本書の活用方法
  • 早めに手法の概要を知り、応用の可能性をイメージしたいビジネスパーソンの方々には、本書のPART3やPART4から読み始められることをお勧めします。その上で、事業創出を考えるヒントをPART1で、デザインの方法を導入する意義をPART2で補うことができます。
  • デザイナーの方々にとっては、デザイナー以外の人々と一緒にデザインを進めていく上でのヒントや課題が本書(特にPART2)の中から見つかるのではないかと期待しています。これからのデザインモードの社会を導く参考になれば幸いです。
  • 学生の皆さんには、「サービスやデザイン」という言葉の意味の奥深さや、今日的な意義に触れることで、これらの活動への興味を強めてもらえればと願っています。本書の内容と関わる研究や調査の文献名を注に記しましたので、ぜひ参考にしてください。

目次

  • はじめに
  • Part1 「サービス」とはなにか?
  • 第1章 サービスの新しい捉え方
    1. 日常におけるサービスとそのルーツ
    2. 経済とビジネスにおけるサービス
    3. サービスを捉える新たな発想
    4. 「関係」としてのサービス
    5. サービスの交換で社会はまわる
  • 第2章 価値共創としてのサービス
    1. 価値共創のビジネスとは?
    2. 顧客の関与を引きだすサービス
    3. 顧客満足からの脱却
    4. 価値共創がもたらすイノベーション
  • Part1 まとめ
  • Part2 「デザイン」とはなにか?
  • 第3章 問題解決としてのデザイン
    1. 「デザイン」のイメージとその背景
    2. 拡がるデザインの領域
    3. デザインが扱う「厄介な問題」
    4. 推論としてのデザイン
    5. デザイン・アブダクションの方法
  • 第4章 デザインモードの社会
    1. デザイン思考とはなにか?
    2. デザイナーマインドとは
    3. デザインモードに向かう社会
    4. デザインモードの展開
    5. 企業におけるデザインモード
  • Part2 まとめ
  • Part3 「サービスデザイン」とはなにか
  • 第5章 サービスデザインの誕生
    1. サービスデザインの歴史
    2. サービスデザインの6つの特徴
  • 第6章 サービスデザインの実践
    1. サービスデザインのプロセス
    2. サービスデザインのテクニック
  • 第7章 サービスデザインのケーススタディ
    1. ポルトガル空港のサービス改革――ケース①
    2. メイヨー・クリニック――ケース②
    3. ロンドン・オリンピック2012における観客体験――ケース③
  • Part3 まとめ
  • Part4 サービスデザインのこれから
  • 第8章 新たな事業機会の発見
    1. 顧客のリソースをつなぐ
    2. 技術革新とリソースの組み替え
    3. デザインによる意味の転換
    4. サービスにおける意味のイノベーション
  • 第9章 組織のサービスデザイン
    1. 従業員のエクスペリエンス
    2. 働き方をデザインする
    3. デザイン戦略を策定する
    4. 戦略的パートナーシップのデザイン
  • 第10章 公共のサービスデザイン
    1. なぜ政府にイノベーションが求められているのか?
    2. デザインアプローチへの高まる期待
    3. 公共組織へのデザインアプローチの導入にあたって
    4. 政策や公共サービスへの住民参加
    5. 多様なデザインアプローチ
    6. サービスの提供から、共同生産へ
  • Part4 まとめ
  • おわりに

『サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた』

武山政直 著
出版社:NTT出版
発売日:2017.09.11
定価:2,970円(税込)
サイズ:A5判
ISBNコード:978-4-7571-2365-6