SUPERMARKET OF THE FUTURE

SUPERMARKET OF THE FUTURE


自分がちょっと先の未来にタイムトリップして、スーパーマーケットでお買い物をしている。そんな不思議な体験とサービスデザインの視点から考えたことについて書いてみます。

その体験をしたのは、ミラノ万博2015で展示されていたSUPERMARKET OF THE FUTUREにて。今回の万博のテーマは「Feeding The Planet, Energy For Life! (地球に食料を、生命にエネルギーを)」。私の大好きな『食』がテーマ、さらに食の国イタリアでの開催ということでワクワクに包まれて来場。約150者国や地域がそれぞれの視点で本テーマに対する考え方を示します。その中で、未来のスーパーマーケットはどうなるの?そこでどんな食べ物をどのように購入するの?という疑問に対して、一つの可能性を示してくれたのがSUPERMARKET OF THE FUTUREでした。本プロジェクトは、COOP ItaliaとMIT SENSEABLE CITY LABディレクターであり建築家であるカルロ・ラッティ氏とのコラボレーションにより、会場内のFuture Food Districtと呼ばれるエリアの中に、2,500平方メートルもある未来のスーパーマーケットを実際に作ってしまうというもの。来場者は、未来のスーパーマーケットを体験しながら、実際に商品を購入することができます。本展示のゴールは、「多くの来訪者に食べ物との新しいインタラクションの形を提示し、フィードバックをもらうこと」とのことでした。

SUPERMARKET OF THE FUTURE
COOP01
入り口から中に入ると、スーパーマーケットとは思えない空間がパーっと広がっていて、驚きとともに、未来へ飛んでいきます。そこには1,500もの商品が並べられ、人々が商品を指さすと、上部にあるディスプレイにその商品の持つストーリー(値段、栄養素、生産地、ここまで運搬された時に排出したCO2量、運搬経路、レシピなど)が表示されます。これらの情報はオンラインで簡単に入手できる情報なのですが、現在のスーパーで利用されている商品ラベルにはこの情報量は提示することができず、消費者には情報が届いていない、もしくは、分散して届いているのが現状です。今回の試みにより、人々が商品を選択するその時その場に、これらの情報が手元にあることで消費行動に影響を与えるのではないか、という問題提起のもとに制作されていました。

COOP#02

野菜の情報を閲覧する来場者

その他には、商品のパッキングをするロボットYUMI、食の3Dプリンターが実現した時に自分好みの味を再現する食品のデモンストレーション映像、冷蔵庫に販売する商品情報を提示する冷蔵庫(情報を得て選択してから商品を手に取ることが可能なため冷蔵庫の開けっ放しを防止。)などが展示されていました。最後には、セルフレジが置かれています。

COOP#03_B商品のパケージングを行うロボットYUMI

COOP#05_B食の3Dプリンターのデモンストレーション

インスピレーションはフランスのチーズ店
本スーパーマーケットのインスピレーションは、フランスのチーズ店なんだそうです。チーズ店では、販売定員の人がチーズやそのチーズの生産者のことを熟知していて、特徴や美味しい食べ方(チーズのストーリー)を教えてくれます。その人と話をしていると旅をしている気分にもなります。そして、一番気に入った/食べてみたいチーズを買えたという満足感と共にお店を去ることができます。本展示でも、今までに知らなかった情報が簡単に見えることの楽しさもありましたが、残念ながら、チーズ店での満足感は十分に得られなかったな…、と感じました。(もしかすると、ワインやチーズと野菜などとの商品ごとの特性による違いもありそうです。)このチーズ店の人が行ってくれる”語る””要望を引き出す””相談に乗る”という役割をまだ完璧にテクノロジーで補完できていないのかもしれない、もしくは、パッケージングなどはテクノロジーに任せ、商品のコンサルティングは、それらの商品を知り尽くした専門家がやるべきなのか。まだ自分にも正解はありませんが、このプラットフォームを利用すれば、可能になることも多いだろうとも感じました。例えば、その場での生産者との直接のコミュニケーション、さらに他の消費者や自分自身のレシピや購買状況などの情報のやり取りもすぐにでも実現しそうです。その先には、そこで購入した購買履歴との比較から商品どうしの味の比較を提示したり、家の冷蔵庫に残っている食品と一緒に作れるレシピ案内など幅広いサービスの提供が期待できそうです。

COOP Future of Supermarket ×サービスデザイン:人々に思わず語らせてしまうプロトタイプ
今回の体験は、私に様々な未来へのインスプレーションとクエスチョンを与えてくれる素晴らしい機会となりました。本展示は、自分がすっぽりとその場に入れるほどに大きく、商品を手に取りながら買い物を体験できる体験型プロトタイプでした。さらに、そこには当たり前のように未来の生活を想像させるテクノロジーがあり、ちょっと先のスーパーマーケットでの買い物は、日常の買い物体験と重なり、自分のリアルな生活にグッと入り込んできます。やはりここまでの規模でスーパーマーケットを作ってしまうイタリアの感性に憧れます。

このような体験型プロトタイプがなぜサービス設計の上で重要なのか考えてみます。まず、一般の来場者に初めて体験するスーパーマーケットへのわくわく感をもたらせます。つまり、その場にいるだけでこれから起こる未来への好奇心が湧いてきます。そして、未来のテクノロジー(特に食べ物の3Dプリンター)が身近になります。一般の来場者が「これは現実になるのは先だから私の生活とはまだかけ離れてるよね…」と頭で考えていたことがリアルに自分の世界でも起こるのだと思わせてくれます。そして、この2つのポイントが作用して得られる一番の効果は、来場者一人一人の未来の生活への想像が膨らむこと。例えば、「ここで得た情報は、家にどうやって持ち帰り、食卓で他の家族にどのように伝えることになるのか」と考えたり、「冷蔵庫、キッチン、スーパーが繋がるのはすぐに実現するかもしれない」とその時の食生活を想像したり、「2回目に買い物に来た時は異なる情報や異なる商品との出会いが欲しいな」「ショッピングカートにも工夫がほしい」などと、この場を起点に、新しいクエスチョンと未来への想像が湧いてきます。それらの疑問やアイデアがさらなるサービスの糧になります。

私自身も本展示に刺激され、色々なことを思いました。「配達プラットフォームが進化する中、このようなスーパーに日常的に通うだろうか?自分の食感度を高め、新しい食と出会うために美術館的に訪れたら良いかも。その時には、何がここに必要だろうか。」とその時の自分を想像してみたり、「このようなスーパーにおいて人はどんな役割を担うべきだろうか?」、「このスーパーマーケットに商品を出品する生産者は誰になるのだろうか?」などと考えながら、とても楽しい時間になりました。

今回の展示は、「テクノロジーは、いかに食べ物と人々のインタラクションを変化させるか」という狙いを持っており、その点で来場者にインスピレーションを与え、自ら少し先の未来の食との関係を思い描くことに大成功だっただろうと思います。少し残念だったのは、ここに来場した時のテンションのまま、自分の頭の中に浮かんだ未来への疑問や新しいアイデアを他の来場者と共有したり、そこでまたアイディエーションができる場や時間(ウェブ上でも、リアルな空間でも)があったら良かったのにな、と思いました。きっと多くの人がここに来場した仲間と色々語ったのではないでしょうか。まさに、体験した人に思わず語らせてしまうプロトタイプでした。

ACTANTでは、リーンで進めるプロジェクトを実践していますが、このような規模の体験型プロトタイプの重要性も改めて体感できました。しかし、ここまで大型のプロトタイプを作成するのは、最適な機会と費用が必要です。既存のプロトタイプ手法と組み合わせながら、今後は、VRなどの技術を活用しながら、その世界の中に没入し、生活者に体感してもらいながらサービス検証をする日も近いのかな、と思いました。(津久井かほる)