共創優位のイマジネーション

共創優位のイマジネーション


情報化がサービスの交換に及ぼす影響は、プロバイダとユーザの隔たりを埋めることに留まるものではありません。それは、これまで関わりを持つことのなかった様々なアクターや、そのリソースの間に、新しいつながりを生み出します。Nike+の例でも、ジョギングシューズとセンサ、インターネットにつながるパソコンやスマートフォン、ユーザ(個人やユーザコミュニティ)のデータ、各種のコンテンツ、オンラインのソフトウェア・アプリケーションといった、様々なリソースを組み合わせて使用することで、「ジョギングを日常的に続ける楽しさ」という体験を多くの人々にもたらしています。そして、それらの各種のリソースの統合は、シューズやソフトウェアのプロバイダであるNike社と、センサやスマートフォンなどを提供するApple社、そして、ネットワークでつながるそれらのユーザコミュニティなどの、複数のアクター間のコラボレーションによって実現されています。

そのような新たなリソースの結合やアクターの連携を促す原動力となるのが、デジタル化による情報の脱物質化と流動性の向上です。例えば「音楽を楽しむ体験」について見ると、かつてはレコードやレコード店を通じて楽曲コンテンツを手にいれる方法が世の中に広まっていました。しかし、音楽情報のデジタル化によって、レコード盤という固定の記録媒体との結びつきから自由になった音楽データは、オンラインのサーバ機、家庭のパソコンや個人の携帯音楽プレイヤー、スマートホンなどの様々な媒体を瞬時に行き来できるようになります。また、それにともなって、レコードアルバムをレコード店で買い求める形態から、楽曲単位でオンラインのストアで購入する形態への変化も起こり、さらに、家庭内に設置されたオーディオ機器による音楽鑑賞から、生活空間を移動しながらの聴取行動へと変化しました。加えて、楽曲の評価や口コミを共有する、自分の楽曲の購買履歴から新しい楽曲の推薦を取得する、ライブコンサートの会場で演奏中の楽曲情報にアクセスするといった、各種の情報入手も簡単にできるようになっています。情報の脱物質化と流動性の向上は今日も様々なところで進行しており、それによって、人々にとってより柔軟性の高い、より望ましいリソースの入手や統合の可能性が生まれています。

以前の記事で、「サービスとは、ある思い(目標)を達成しようとするAという主体と、(相手の思いを遂げさせるために)力を貸すBという主体の関係のこと」だと指摘しました。ここで、もしAを助けようとする主体が、B以外にもいたらどうでしょう?Bが頼れる存在としてAから選ばれるためには、既にわかっているAの思いに対して、Bが他のどの主体よりも上手く力になれるというアドバンテージが必要です。しかし、より強力なのは、Aの思いを上回るさらに「Aがもっと喜びそうなこと」をBが提案して、そしてその実現の力になることです。世の中では、このような、より頼れる存在になるための努力や工夫から、様々なイノベーションが起こります。そして「期待によりうまく応えること」や「期待を上回り、もっと喜ばせること」は、単なる特定の新製品の開発よりも、各種のリソースの新たな組合せや、それを可能とする様々なアクター間の新たなコラボレーション(すなわちネットワーク的なサービス交換)によって実現される場合が増えてきています。

このようなイノベーションの動向を踏まえると、従来からある製品やサービスの区分や、またそれによって既定される事業ドメイン、あるいはそれに対応した組織内の部門といった枠組みの中で、何を顧客に提供できるかを考えることが必ずしも有効でないことに気づきます。むしろ、顧客の達成したい、あるいは顧客に達成させたいアウトカムや、そのためのリソースの統合の観点から、製品カテゴリーや組織内外の壁、既存の市場の境界を超えて、どのような価値を顧客やパートナーとともに生み出せるのかという発想が重要であることがわかります。つまり、今ビジネスに求められるのは、情報化にともなうリソースの流動性や新規の結合から生み出される価値に焦点を当てて、そこから製品やサービスの位置付けを見直し、また事業や企業組織の役割、企業間の関係性を捉え直す、価値共創のイマジネーションです。そして、その先に生まれてくるイノベーションは、従来からある製品やサービスの区分や、またそれによって既定される事業ドメインといったビジネスの制度的な枠組みに対して大きな再編を迫ることとなります。

情報化はビジネスに対して想像的で革新的な価値の共創を呼びかけています。もはや既存の製品や市場でどのように競争的な優位を確立するかという戦略ではなく、共創によって、どのように優位な市場を自らつくり出していくかが問われているのです。